「育薬」の意義とMRの役割

「薬を育てるMR活動」をまとめました。 更新日: 2017年5月8日

土日はラクロスの練習で外にいる時間が長く、5月にして順調に日焼けが進んでいます。プレー中の接触により腕にアザができても、日焼けのせい(おかげ?)で、目立ちません。

さて、先日「医師の職業倫理指針から考えるMRの行動」という教材の紹介の中で、医師との協調について触れました。MRにとって「育薬」は重要な使命と言われていますが、まさに「育薬」こそ、医師との協調が求められます。
また、「育薬」という言葉は製薬業界において当たり前のように使われています。しかし、どのような背景からこの言葉が生まれたのかを考えたことはあるでしょうか。
今回は医療界で多く耳にする機会のある「育薬」という言葉から、MRの在り方を見つめなおします。

被験者に向けた言葉「育薬」

このように治験の被験者が集まりにくい状況の中で、ある医師が、「治験」という言葉は一般の方には理解しにくいのではと考え、治験の被験者を「創薬ボランティア」、対して、市販後臨床試験の被験者を「育薬ボランティア」と呼ぶと提唱したことが、「育薬」という言葉が誕生するきっかけとなりました。 薬は製薬企業が創るものと考える一般市民に対し、「育」という言葉の持つイメージにより、「育てる」「育む」ことは自分でもできる行為であるという印象を与えることで、自分も薬を育てることに協力しようと思う人が増えるというわけです。

    ▼用語解説
  • 中野重行医師:大分大学名誉教授。2003年〜2006年まで、大分大学医学部附属病院長を務める。大分大学医学部で主宰した「創薬育薬医学講座」・「創薬育薬医療コミュニケーション講座」の活動と機能を引き継ぐため、2016年に創薬育薬医療コミュニケーション協会を設立。同代表。

医薬品の成長は使用する人が居てこそ成り立つものであり、そのことを一般の人々に伝えるために考えられた言葉が「育薬」のルーツなのですね。医薬品の開発に限らず、いい意味で一般の人々を巻き込むことは医療界全体で必要とされることです。そのためにも信頼が揺らぐようなことがあってはならないのだと、再認識しました。

「育薬」は製薬業界全体のスローガン

医薬品は、倫理上の理由から、承認時点では限られた条件下での使用経験しかなく、完璧な医薬品情報を得ることはできません。治験段階で得られる医薬品情報は限られることを示しつつ、市販後の情報を増やし予期せぬ副作用による健康被害の拡大防止に取り組んでいく姿勢を国民に分かりやすく伝えるために、「薬を育てる」「薬を育む」という言葉は非常に適しています。 製薬業界が「育薬」という言葉を使う背景には、薬害を含めた医薬品の安全性対策の歴史があり、誤解を恐れずに言えば、『余所行きの言葉』と言えるかもしれません。 医薬品の安全性や有効性を高めより適正な使用法を探し出し、患者さんの治療の選択肢を広げ医療に貢献することを、製薬業界全体のスローガンとして社会に向けて発信する言葉が、「育薬」なのです。

この業界に飛び込んでからは当たり前のように「育薬」という言葉を使っていますが、思い返せば、以前は世に出ている医薬品が完成形だと考えており、医薬品を使用する自分自身が薬を育てているというイメージは持ったことがありませんでした。「育薬」という言葉自体も、その意義も、もっと広く一般に伝えていかなければならないのかな、と感じます。

なぜ医薬品安全対策は強化されたのか

GVP・GPSPといった基準が必要になった歴史的経緯を、MRは理解しておく必要があります。 これまでに、サリドマイドによる催奇形性、キノホルムによるスモン、ソリブジン事件、非加熱血液製剤によるAIDSや肝炎、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などといった重大な副作用被害が発生しました。これらは社会問題となるまでに規模が拡大した「薬害」です。 先に述べたように、医薬品は、承認時点では完璧な医薬品情報を得ることはできません。そのために予期せぬ作用が起き、重篤な副作用の被害者をうんでしまった歴史があります。その教訓から、このような歴史を繰り返さないために医薬品安全対策は強化され、現状のGVP・GPSPに繋がっていることを、「育薬」を担うMRは忘れてはいけません。

承認時点で完璧な医薬品情報を得られないという性質上、どの製薬企業のどの製品も「薬害」を引き起こす可能性があります。そうした中で、少しでもその可能性を下げるために今のGVP・GPSPは強化されてきたようです。ただ単にGVP・GPSPを学ぶのではなく、現在に至るまでの経緯を知ることで、よりMRの役割の重みを感じました。

薬の潜在能力を引き出す医師主導治験

医師主導治験による「育薬」の例として、イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)が知られています。 「手術不能又は再発非小細胞肺癌」を適応症とするイレッサは、2002年の承認販売後、副作用による死亡例が相次いで報告され、薬害としてマスコミにさかんに取り上げられました。その後、2つの医師主導治験を経て、EGFR遺伝子変異が本剤の効果予測因子となるというエビデンスが確立されたことにより、事前にEGFR遺伝子変異検査を実施することで効果の見込める患者さんを絞り込むことが可能になり、本剤の適応は「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に変更承認されました。 効果を見込めない患者さんを副作用で苦しめるリスクが減り、有効性と安全性を高めた医師主導治験は、まさに、医師による「育薬」です。しかし、このエビデンスが確立されるまでに、多くの患者さんが本剤の副作用とみられる症状で亡くなられていることもまた、決して忘れてはなりません。

    ▼用語解説
  • EGFR:上皮成長因子受容体。細胞の増殖に関わる因子を認識することでシグナル伝達を行う。EGFRを構成する遺伝子のチロシンキナーゼ部位に変異があるかを、EGFR遺伝子変異検査では確認する。
    ▼参考
  • 2005年開催の厚生労働省ゲフィチニブ検討会の資料によれば、2002年7月の発売から2004年12月におけるゲフィチニブ使用との関連が疑われている急性肺障害・間質性肺炎等の副作用報告例は1,473例、うち死亡例は588例あった。

どんな薬であってもリスク(副作用)はつきものですが、そのことは忘れられがちです。そして一度「薬害」と言われてしまうと、本当に効果が見込める医薬品であっても、使用されなくなってしまいます。だからこそ、いち早く情報を集め「育薬」をすることが重要であり、そのなかでMRが担うものは大きいのだと感じました。

今回のまとめ

「育薬」という言葉が生まれた背景、そこに込められた想いを学ぶことができました。それと同時に、「育薬」という言葉を形骸化させてはならないと強く感じました。今、苦しんでいる患者さんを救うことはもちろんですが、目の前に苦しんでいる患者さんがいなかったとしても、「育薬」を継続的に行うことが、未来で苦しむ患者さんを救うことに繋がるということを、多くのMRの方々に伝え続けたいと思いました。 次回はどんなことが学べるのか、楽しみです。

author:水谷菫
メディカルエデュケーション(editor+)。
東京・青稜高校出身。早稲田大学スポーツ科学部卒。趣味はラクロス。就職活動時代はMRかSEかという2択で迷った元SE。現在、医療・介護・ヘルスケア部門を勉強中です。

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